魂で金を掘り起こせ
2009 , 4月 09 日 木曜日全国の収容人数1500人以上の大ホール、253施設を調べてみた。
長野県なら、長野オリンピックスタジアム、長野エムウェーブ M-WAVE、長野ビッグハット Big Hat、長野県県民文化会館、長野県松本文化会館、長野市民会館などがそれに該当する。
このクラスのホールでは、政令指定都市以外のほぼすべてのホールが、自治体や自治体から運営を委託された財団、第三セクターにより運営されている。
自治体系のホールの運営の特徴は、「施設を貸してやる」「我々が管理責任者である」いうスタンスである。
サービス業ではないのである。申し込み方法と休館日にそれが顕著に現れている。ホームページの作りにもその姿勢が透けて出ている。
自治体系のホールは示し合わせたように年末年始の期間は休館である。休館日も毎週1日とっている。休館日は開けてくれないから中休みになり連続公演はできない。
そして、何よりもホール運営者が威張っている。利用には各種申請書様式の申請書が当たり前である。
例えば、借りるときには「利用許可申請書」、取り消すなら「使用取消届」、申請者が変われば「使用申請者変更届」、責任者が変われば「使用責任者変更届」、使用時間が変われば「使用時間変更承認申請書」、子どもを連れてくるなら「託児室使用申込書」、夜の催し物なら「夜間駐車申込書」、ハジケタことをやるなら「禁止行為解除承認申請書」、事故が起きたときのために「避難対策および初期消火対策計画書」及び「自衛消防隊編成表」、ペットをステージに上げるなら「動物の入場承認申請書」、使い終わったら直ちに「利用報告書」といった具合である。
このような施設の一つである千葉県にある市民文化会館のホームページを見ると、ガランとして冷えきった寂しいホールの様子が想像される。上司に言われて制作方法を覚え、苦労して作り上げたように見えるホームページである。
2ページのサイトで紹介する 1,632席のホールの 4月5月の行事予定は、ほとんどが地元のカルチャー教室や子どもの稽古ごとの発表会で埋まっていて、有料の公演は5回のみ。そのうち4回はセミプロもしくはアマチュアの公演である。
休日の全日の利用料は63,000円。年間の利用料収入は500万円を超えないだろう。管理の人件費にもならない。
調査した自治体のホールのホームページからは、職場となった施設に通勤しほとんど誰も訪れてこない事務所で、つまらなそうに時々判を押している職員の姿が目に浮かぶ。
準備が大変なステージでも時間厳守を盾に定刻前には入場を許さず、時計を見ながら閉館時間を待ち、秒針がその時刻を示したとたんに退場を求める、官吏の基本行動原則に基づき、それを忠実に実行するイメージである。
これにたいし、民間企業運営のホールはスタンスが全然違う。
当たり前のことだが、稼げるときには休まない。休むのは利用が見込みない時期と設備維持に必要な時間だけである。
なかには、企画立案から実施運営まで全体をサポートしてくれるホールまである。
「サッポロファクトリー」(恵比寿ガーデンプレイス系列)だ。
サッポロファクトリーは、トータルスペースプランナーです。こころに残る印象深いイベントにするために大切なのは、主催者と来場者双方のニーズにどれだけ応えられるか。そのために、単なるスペースの提供だけではなく、ベテランのスタッフが構想段階から、企画・演出・運営・管理までトータルにお手伝いいたします。 主催者の目的に応じて各スペースをお選びいただくことができ、音響や照明、映像に関しても、経験豊富なスタッフが常駐。さらに、各種展示会や商談会などに必要な設備・備品をはじめ、ケータリングや食事、さらに宿泊の手配まで、細部にも気を配ったサービスを提供しています。
利用の申し込みも1年前からでき、仮予約あり、キャンセル時は予約金(利用料金の半額)のみの支払いと、利用者の利便を意識している。
「横浜スタジアム」も営業重視である。
利用料金は、民間企業では当たり前のことだが、「開催・運営内容に応じてお見積もりいたします。」となっている。自治体でも最近できた大都市のホールは、利用者側のスタンスでの運営が増えている。
顧客のニーズは千差万別である。スタッフ丸抱えで大規模設備持ち込みのコンサートができるプロモーターもいるが、動員数は確保できても企画力、運営力が弱いプロモーターもいる。顧客のニーズを掘り起こし、顧客が必要とするサービスを提供することは、サービス業の基本中の基本である。
サービス業として施設の貸し出しをとらえれば、サービスを行うための人材が必要になる。サービスを行う人材のスキルアップでさらにサービスが向上し、競争力が上がってさらに営業力がつく。
営業力が上がれば売り上げが上がる。
シティホールを中核とした産業もできないわけがない。民間ではできているのだ。
自治体の施設は、さらにアドバンテージを持っている。
営業を考えれば、企画力運営力はついてくる。
たとえば、グリーンニューディールと環境問題を考えれば、従来と同じやりかたでイベントやコンサートを運営することはできない。
1500人を超えるコンサートを今までと同じ頭で考えるのは、時代に逆行している。
「佐久平」は長野県の東のハブになりつつある。
高速のジャンクションもできるが、長野新幹線と小海線のジャンクションもある。
家から近くの駅までは車を使っても、駅から小海線で来てもらえる。上田、長野、安中なら新幹線が使える。
二酸化炭素の排出を減らす交通手段はエコであり、環境へのインパクトも少なくできる。「パーク & ライド」の活動の見本にもなり、県内はもちろん全国からの注目に値する。
コンサートに合わせた小海線の増発も依頼できるかもしれない。
小海線から外れる浅科、望月地区にはシャトルバスの運行ができないだろうか。
そうなれば地元のバス会社の利益にもなる。
だが、コンサートの開催者ではこのようなことはできない。自治体、ホール運営会社でしかできないことだ。
民間がホールで稼いでいるのだから、同じ商品のサービスで稼げないわけがない。
稼げないとすれば、やりかたが間違っているのだ。
「稼げない」「稼ぐ必要がない」と考えているから稼げないのだ。
売り上げ目標は決まっている。年間の維持費用が目標金額だ。
全国の自治体のホールは、「借金を生み出すお荷物」「税金をつぎ込む不良債権」というのが相場だ。稼げない全国の自治体のホールの中で、「稼げる」自治体の施設は全国から注目の的になるだろう。話題になればさらに利用者が増える。
しかし、漠然と考えていても進まない。「稼ぐ自治体ホール、全国10位以内」「注目される自治体ホール、全国10位以内」など、具体的で計測できる目標を設定することが必要だ。
観念的、画一的に考えていては殻から出られない。
文化を育てる活動は注目に値するものだ。
まず必要なのはビジョン。目標なのだ。
思いつきで計画なしにハコモノを作ってどこでも全敗しているのだ。
佐久の未来が描けないと目標も作れない。
その目標を叩きながら、必要なステップを洗い出して、優先順序をつけて計画を立てる。
計画を一歩づつ進めて、目標に近づけていく。
5年後10年後の将来の姿を想像しながら、努力を重ねていくのだ。
…まるで会社の仕事の進め方そのものだけど。
長期ビジョンを作って市民に示し、継続して目標に進む事業にするつもりでないと柱にならない。
それくらい、はっきりして誰にでもわかる目標でないと継続されない。
逆にそれくらい明確な目標が上げられれば、強い。
五郎兵新田堰をつくった市川五郎兵衛さんも、五郎兵衛新田のイメージを持っていたに違いない。ステップごとイメージと計画もしっかりたてていただろう。
そして未だに地元に恩恵をもたらしている。
縮こまって何もしなければ、どんどん固まって小さくなっていくだけだ。
握った手を開いて差し出せば、相手も手を開いてくれる。
産業は興すものだ。
地域を発展させるのは産業だけど、誘致するだけじゃ今と同じだ。
土地を用意しても工場はなかなか入らない。誘致した企業も撤退や工場閉鎖をする。
継続的に産業を育てていくシステム、環境はどうやったらできるんだろう。
いずれにしろ、まず「人を育てる」ということになるが、佐久は東京まで1時間になった。
95年8月に、18億円で作ったマルチメディア情報センターも、魅力を保ち人が集められたのは数年だけだった。
そこで育った人たちは、覚えた技術を持って東京に行ってしまった。
同年9月に、ジェラシックパークを作ったマシン indigo5を入れ22億円以上を費やして作った旧丸子町のマルチメディア研究センターも、翌年にはIT機器の陳腐化が目立ちはじめ、2003年には売却の話が持ち上がり整理されることになった。
ハコは成長してくれない。
ハコを成長させるシステムが必要だ。
人の成長を支えてくれる、成長するインフラが必要なのだ。
日本や韓国は首都に企業が集中しているが、マイクロソフトとアマゾンの本拠地はシアトルの近くだ。
Googleはサンフランシスコ湾の南側、いまでこそ住宅がびっしりだが、かつてはスタンフォード大が真ん中にある簡素なところだった。
シリコンバレーだって、はじめからシリコンバレーだったわけではない。
毎月第2水曜日の夜、スタンフォード大学の線形加速センター(SLAC)の講堂に集まった電子機器やマイコン好きなアマチュアが自慢し合っていた場所から始まったのだ。
よそに持ち出せないシステムを、佐久に作ることを考えるのだ。
魅力があって持ち出せなければ、人もモノも金も情報も外からやってくる。